活 動 記 録

支縁のまちネットワーク第6回公開学習会
日時 2015年10月31日(土) 15:00~17:00
場所 龍谷大学深草校舎紫光館5階研修室1
演者 松島 靖朗 氏
(安養寺住職。一般社団法人お寺の未来理事)
演題 「おてらおやつクラブの活動紹介 ~お寺の社会福祉活動~」

 

20151109第6回の公開学習会は、「おてらおやつクラブ」代表の松島靖郎(まつしませいろう)氏を講師にお迎えし、10月31日、龍谷大学深草学舎紫光館にて開催した。講題は「おてらおやつクラブの活動紹介 ~お寺発の社会福祉活動の可能性~」。
まず、講師から自己紹介があり、自坊のお寺から脱出し一度はインターネット関連企業でビジネスに従事するも、普通の人生への疑念から再びお寺に戻り僧侶になることを決意したことが語られ、母子家庭で育った当事者意識などがこの活動の根っこにあることが述べられた。続いて、「おてらおやつクラブ」の概要と活動の背景、具体的な内容について次のように紹介された。

 お寺には檀信徒等からの「おそなえ」が多数集まってくるが、住職や家族が「おさがり」として戴くだけでは余ってしまうこともあり、子どもの集いや来客者に「おすそわけ」としてふるまっている。しかし実際、賞味期限が過ぎたり、痛んだりする食べ物が生じてしまうことが悩みであった。一方、一日の食事にも困る子どもが、外国ではなくこの日本にもたくさんいるという現実がある。
現在の貧困問題を統計から見ると、ひとり親家庭の世帯数が、ここ25年間で母子世帯/1.5倍、父子世帯/1.3倍と増加している。その原因としては、離婚や未婚の増加が挙げられる。
一般に「子どもの貧困」と聞くと、最低限の生活が保障されない「絶対的貧困」を思い浮かべるかもしれないが、国内では「相対的貧困」(先進国で、国民全体の所得の平均値にくらべて著しく所得が低い状態)が顕著である。貧困状態を定義すると「世帯所得の中央値の半分を下回っている状態」であり、年収でいうと122万円(平成24年)が貧困ラインとなる。日本では、6人に1人、ひとり親世帯では2人に1人という貧困率である(平成24年)。
貧困状態では、物質的・金銭的な欠如に加え、人的、文化的な豊かさに欠き、子どもの成長過程に負の影響を及ぼす。貧困に起因する悲劇的な事件は、昨今の新聞を賑わせている通りである。
そのような中、子どもの貧困を支援する団体「大阪子どもの貧困アクショングループ」との出会いがあり、「おそなえ」を「おさがり」として「おすそわけ」するという形でのお寺の社会福祉活動として、「おてらおやつクラブ」が2013年に始動した。お寺やお坊さんが貧困問題解決にむけて何ができるのかという模索が始まったのである。
形態として、当初は賛同寺院より自坊に集まった食品等を、支援団体から紹介された母子家庭へ送る形であったが、現在は、支援団体から情報を得た「おてらおやつクラブ事務局」を介して、賛同寺院が直接に母子家庭へ送る形をとっている。賛同寺院が、ひとり親家庭と支援団体の繋がりを支え、支援団体にとっては、活動の後押しを物心両面でおこなう存在に、ひとり親家庭にとっては、「自分たちを思う人がいる」と安心を与える存在として、後方支援としての役割を担っている。全国に7万あるお寺を起点に貧困状態にあるひとり親家庭を支援するセイフティネットを構築することが「おてらおやつクラブ」が目指すものである。
現在、賛同してくれている寺院は200カ寺、繋がりのあるひとり親家庭は50家庭、支援団体は30団体である。賛同寺院のうち発送実績のある寺院は123カ寺、毎月発送している寺院は50カ寺で、32都道府県で支援活動を行っており、毎月1000人の子どもたちにおすそわけを届けている。おすそわけはおやつ等の食品に限らず、文房具等の日用品も送っている。

  以上をふまえ、お寺の社会福祉活動として、「おてらおやつクラブ」がもたらした変化、今後の活動や課題について次のように述べられた。

 支援団体は、おやつの受け渡しをきっかけに直接、母子に会えるようになったり、生活保護につなげることができるようになった。お母さんたちは「見守ってくれる人がいる」という安心感がやはり大きいようである。僧侶自身は、活動を通じた経験を通して自分の信仰が試され信仰が深まっていっているように感じる。
 今後の展開としては、児童養護施設や社会福祉協議会との関わりを作ったり、放課後学校や日曜学校などの「てらこや事業」を運営したり、給付型のお寺の奨学金を創設したり、シングルマザーに対する雇用の場の創出やシェアハウスの設置などを考えている。
 課題としては、様々なケースがある個別の支援をいつやめるかという、やめ時の問題がある。また、活動の成果をどう評価するのかという評価方法の問題や組織化に向けて資金をどのように調達していくのかという問題を抱えている。

 まだまだ進行中の活動であるが、支援を受けたお母さんからのメールや、メディアの報道をご覧になった方からの手紙や電話など活動に対しての喜びやお礼、励ましをいただくことが多い。これからも志のあるお寺がそれぞれできる範囲で動くことで、お寺や僧侶への世間からの期待値を上げ、お寺が「駆け込み寺」として機能し、最終的に、お寺とひとり親家庭が地域密着型で共生していく社会の実現を目指していきたい。貧困とは、貧乏に孤立が加えられた形である。様々な人から「おそなえ」に託された思いを「おさがり」として苦の現場へ運ぶことで仏縁を育んでいきたい。

 講演後は、参加者との積極的な質疑応答が行われ、念仏を信仰する松島氏自身の変化として、あらためて慈悲とはどういうことかと考えたり、法然上人の歩まれた道を深めたりすることで、この活動はお念仏の‘み教え’の実践そのものであることに気付かされたことに触れ、念仏僧が社会活動をする意味について語られた。